イラスト:山本和枝  

「パパー!! 早く、早く〜!!」
 砂浜に着いた途端、ミントは波打ち際に向かって走り始めた。
「ミント、そんなに走ったら、転ぶぞ」
「だいじょうぶだもーん!」
 俺とミントは、ひさしぶりにバナムに戻ってきた。
 二人で旅立ったのは、ずいぶん昔に感じられるけれど……。
 こうしてバナムの海ではしゃいでいるミントを見ると、変わらないな〜と思う。旅立ちが
ついこの前のような気がする。
 冒険にはかなり慣れたけれど、ミントのことは、まだよく分からないときもある。
 もちろん、ミントは大好きだし、ミントも俺に懐いてくれてる。でも、やっぱり、ときどき
「あれ?」と思うこともある。
 ミントがドラゴンだからか、それとも女の子だからか……どっちが理由なのか、俺には
分からない。
 だけど、いつかは、ミントの考えてることや感じていることを、全部理解出来るように
なりたい、と思ってる。
 俺は、ミントのパートナーで義父パパなんだから。
「きゃっ! わっ!! 冷たーい!」
 ミントは、波打ち際で波と追いかけっこをしている。
 うまく逃げているようだったけれど……。
 ザップーン!!
「きゃあっ!!」
 大きな波の音と、ミントの悲鳴に振り返る。
 そこには、びしょ濡れになったミントがいた。
 俺は、急いで駆け寄った。
「ミント、だいじょうぶか?」
「ペッ……ペペッ!!」
 ミントは、口の中から水を吐き出している。
「しょっぱいよぉ〜パパァ……」
 頭からずぶ濡れになったミントは半べそだ。
「はしゃぎすぎだよ。ほら、こっちに来い」
 俺はタオルを取り出して、ミントの頭や身体を拭いてやった。
「ごめんね、パパ。ひさしぶりに海に来たから、ミント、楽しくて……」
「ここのところ、冒険続きで遊ぶ暇もなかったしな。遊びたい気持ちも分かるし、海に来て濡れるなって言うのも、無理な話かもしれないな」
 そう言うと、ミントは目をキラキラと輝かせた。
「濡れてもいいの?」
 そんな目で見られると、ダメとは言えない。
「あ、ああ。いいけど……。ほどほどにしろよ。あんまり濡れると、風邪ひくからな」
「ミントは元気だから、風邪なんかひかないよ〜」
 止める間もなく、ミントは、また波打ち際を走り始めた。
 楽しそうな笑顔を見ていると、おとなしくしていろとは言えない。
 まあ、いいか。洗濯物が増えるくらいは……。
 ミントは、しばらく波打ち際ではしゃいでいたが、しばらくして……。
「パパー!!」
 と、叫びながら、俺のところに駆け寄ってきた。
「パパ、ミント、ケンケンパしたい!」
 以前に、ウィローと一緒にケンケンパをしたことを思い出したんだろう。
「ケンケンパか。いいぞ。一緒にやろう」
「うん! パパ、マル書いて!」
 俺は、適当な木切れを捜して、砂浜にマルを書いた。
 ウィローと遊んだときのことを思い出しながら、同じようにマルを書いたつもりだったんだけど……。
「よし! これでいいか?」
 書き終わって振り返ると、ミントがむくれている。
「うん? どうした?」
「このマル、ちっちゃい」
「え? そうか?」
「ウィローさんが書いたマルは、もっと大きかったもん」
 そう言われると、少し小さめかもしれない。
 前にケンケンパをしたとき、ミントはうまく跳べなくて、結局俺が肩車をして跳んだんだ。
 そのことが頭にあったから、無意識に、小さく書いてしまったようだ。ミントにもちゃんと跳べるように。
 肩車で跳ぶのが大変っていうのもあるけど、ミントのがっかりする顔が見たくなかったんだ。
 でも、ミントの記憶力は、意外としっかりしていたようだ。
「分かった。書き直すよ」
 俺は、ウィローが書いたサイズのマルに書き直した。
 跳べなくてミントが拗ねたら、また肩車してやればいいか……と思いながら。
「よし! これでいいか?」
 ミントは、出来上がったマルを見て、うれしそうに笑った。
「ウィローさんの書いたマルと、そっくりだね!」
「そうか? よかった」
「パパ、先に跳んでみて」
「ああ。いいよ」
 ……ケンケンパ、ケンパ、ケンパ、ケンケンパ。
 ミスなく跳び終えると、ミントが拍手をしてくれた。
「すごーい! パパ、上手〜」
 大したことじゃないけど、やっぱり褒められればうれしいものだ。
「次は、ミントの番だね。ええと……」
 ……ケンケンパ、ケンパ……。
 俺は、ダメだったときの慰めの言葉を用意した。けれど、ミントは、マルに合わせて上手に跳んで行き……。
 ……ケンパ、ケンケンパ!
 最後まで、ふらつくこともなくきれいにケンケンパを決めた。
「できた〜!!」
「すごい! すごいよ、ミント! ちゃんと全部跳べたじゃないか」
 駆け寄って、頭を撫でてやる。
「エヘヘ。ホント? ミント、上手だった?」
「ああ、上手だったよ」
 褒めてやると、ミントはすごくうれしそうに笑った。
 その顔に、以前跳べなくてむくれていた顔が重なって……。
 ミントは、成長したんだなぁ〜と思った。
 無邪気に遊んでいる姿は変わらないのに、ミントは確実に成長している。冒険の中でも感じていたけれど、こうして、はっきりと目にすると、感慨深いものがある。
 そんなことを考えていたら、俺は、不覚にも涙が出そうになっていた。喜びっていうか、感動っていうか……そんな涙だ。
 すると、ミントが不思議そうに見上げてきた。
「パパ? どうしたの?」
「な、なんでもない」
 こんなことで泣いてるなんて、ミントには見られたくない。
 俺は、出そうになった涙を寸前で止めた。
「よし。今度はパパの番だ。行くぞ!」
「ミントも〜!!」
 ケンケンパをする俺のあとから、ミントもついてくる。
 もう、肩車をする必要はない。
 ……ケンケンパ、ケンパ、ケンパ、ケンケンパ!
 いつか……俺の後ろじゃなく、俺の前でケンケンパをする日も来るだろう。
 ……ケンケンパ、ケンパ、ケンパ、ケンケンパ!
 今までのことや、これから先のこと、いろいろなことを考えながら、俺は、ミントとケンケンパをし続けた。
 水平線の向こうに、太陽が沈むまで……。